autumn / winter 2026-27

- 在; formed -

人間の存在意義は"役割"によってしか肯定されないのか。

-「変身」

歴史はたいてい役所仕事によって創作されるのです。

 フランツ・カフカ

1769年。女性は自らの意思とは無関係に、生まれ故郷であるオーストリアからフランスに送り込まれ、
「政治の道具」としての役割を押し付けられました。
その20年後には革命が始まり、権力、家庭、子供たちを奪われる中で、彼女は虚飾を脱ぎ捨てました。
実存主義では、極限状態-死の恐怖-において人間は真の自己と向き合うとされますが、
彼女は投獄され、公開裁判を受け、最後は死刑を受け入れることで、
誰にも依存しない「1人の女性」としての存在を確立しました。
誰よりも貴族的な生き方を貫いた女性として、マリー・アントワネットは人びとの記憶に深く刻まれています。
実存主義的思考から見る彼女の生涯は、
極めてドラマチックな「自己創造」と「不条理との対峙」の物語として捉えることができます。
実存主義は「実存は本質に先立つ-人間はまず存在し、
その後自らの行動で自分を定義する-」というジャン=ポール・サルトルの思想に代表されますが、
アントワネットは、王妃という決定された役割から、
最終的に孤独な「1人の人間(アントワネット・マリー)」へと自らの存在を確立しました。
他方で、ある朝目覚めると巨大な毒虫になっていた男、グレゴール・ザムザを描いた、
不条理文学の金字塔『変身』(1915年、フランツ・カフカ著)は、人間が社会や周囲の状況によって「モノ」のように扱われ、
居場所を失っていく絶望を不条理演劇のモチーフとして、今なお強く訴えかけています。
2026-27年秋冬は、現代における実存と不条理が下地となっています。
ランウェイショーは今、その伝記が再び肉体や物質、布地へと変容する礼典となるのです。
作品群は日常的な用途から切り離され、隔離され、強調され、熟考される価値のあるものと標榜します。
中世的なイメージを考古学的なアプローチで探究する過程で生まれた、
古代的でありながらも現代的な本質的存在です。
不条理は、この伝達を可能にするメディウムへと変化します。
すると、衣服は最早、消費の対象ではなく、聖なる価値あるものとして立ち現れる…
一度立ち止まり、耳を傾け、思考を凝らす心構えを必要とする存在へとなり得ます。
不条理は、単なる悲劇でも、歴史的な引用でも、舞台装置でもありません。
装いにおける他者との距離、現実と非現実、あるいは超現実…の関係を問いかける
整然なるアティチュードを体現しています。
それは、画一的な視線や思考に侵食されることのない、
与えられた役割が剥がれ落ちた時に遺る、純粋な欲望と尊厳なのです。